この「モンマルトルの丘」はジャン・ルノワール監督が、アメリカでの活動からフランスに10数年ぶりに帰国後の1954年のフレンチ・ミュージカルの名作です。日本での公開は1955年だそうです。この時代の総天然色と呼ばれたテクニカラーの色鮮やかな作品群が好きです。70年代のヨーロピアン・デカダン映画を好んで鑑賞していたもので、異なる魅力の映像美をずっと後追いで体験しました。ミュージカル映画はアメリア映画に多数名画がありますが、フランスには『フレンチ・カンカン』があるのです。それもお家芸とも云える世界です。このカンカンという踊りはドイツ発生だそうですが。
大好きなジャン・ギャバンが興行師役で、若い踊り子の娘役はフランソワーズ・アルヌール。右の眉の上がり具合が印象的なマリア・フェリックス、その他、アンナ・アメンドラ、ミシェル・ピコリ、ジャンニ・ニスポジト、ジャン=ロジェ・コシモン、フィリップ・クレー、エディット・ピアフ、パタシュウ、アンドレ・クラヴォ、ジャン・レーモン、そして、声の出演(吹き替え)でコラ・ヴォケールと、まあ!豪華過ぎる配役です。シャンソン歌手の方も多く出演されているのも嬉しいです。「ムーラン・ルージュ」や「フレンチ・カンカン」という19世紀末のパリで生まれ形成されている過程を軸に、男女の恋物語を悲喜交々と、ジャン・ルノワールらしいユーモアと哀愁を込めた展開は、華麗でコミカルでもあるのですが、観終えたあとはほろりと、じわじわと涙が溢れてくるのでした。また観たいと思います。その涙を誘う要因のひとつにコラ・ヴォケールの声と、ジャン・ルノワール自らが作詞を手がけた名曲「モンマルトルの丘」の恋模様と重なり合うからでしょうか。