2015年6月15日月曜日

孤高のブルネットの麗人 ★ バルバラ:BARBARA / Nantes (1964年)

★バルバラの絶頂期の世界にたった一つの陶器のような「声」は唯一無二!
シャンソンにも様々。バルバラのお声の肌理と室内楽のような美しい楽曲たち。
これはバルバラだけの世界。珠玉の作品群はいまなお私の心を震わす。



「私の好きなうた」 バルバラ(BARBARA)/ナントに雨が降る(NANTES) 
バルバラ!孤高な気高き旋律。優雅な気品と激情を合わせ持つ神秘な声。初めて、この声に出会った作品にこの曲が入っていました。そして、歌詞の内容を後に知りいっそう好きになった曲です。今まで母から聞かされていたシャンソンというイメージとは赴きの違う、美しいピアノの調べとバルバラの吐息と声に圧倒されたものです。間違いなくこの曲は、シャンソンの名曲の一つとして永遠に語り継がれて行くものでしょう。ユダヤ人であるバルバラの歌手デビューは平坦な道のりではありませんでした。この曲を発表した時、既に30代半ば。60年代のバルバラの声はあまりにも繊細で艶があり、このような悲しくも美しい曲がよく似合います。この室内楽とでも言えそうな、バルバラならではのシャンソン世界を見事に表現していると思います。この曲と出会って10年余り経ち私の父も亡くなりました。今でもこの曲を聴くと悲しくなるのですが同時に私の心を落着かせてもくれます。このピアノとバルバラの声の震えだけで充分な比類なき名曲!私にとっての生涯大切な一曲だと思います。

 上記の拙文は2000年初め頃に「私の好きなうた」として、バルバラの『ナントに雨が降る(NANTES)』について書いたものです。80年代育ちのバブル時代の日本でお気楽に生きて来た私が、バルバラのような激動の時代や体験を経て、まるで「生きるために歌い続けた」ようなお方の心の葛藤など到底分る筈は無い。早い別れだとしても両親の愛をいっぱいに受けて育った私には。けれど、もうこの世に居られないバルバラの残された音楽、お声を聴き続けています。「バルバラが聴きたい」と、呼ばれるかの如く、時折、ひっそりと聴き返し続けています。殊にバルバラを聴く折はターンテーブルにレコード盤で聴くことが多いです。


 聴く時々の心境によって多少は異なるけれど、初めて聴いたあの瞬間は色褪せることはない。読書に「熟読」と「濫読」という形容があるように、音楽を聴く、音楽に向かうことはただ「音を楽しむ」だけに留まりはしない。たかが音楽、されど音楽なり。向き合うことで見えないものが見えることもある。衝撃的な出会いに心苦しくなることだって。バルバラの正しく珠玉の楽曲たちの中には「死」がいつも隣り合わせに居る。ペシミズムを否定的に私は想わない。そんなことをバルバラが教えてくださったようにも想います。辛い現実を生きてゆく為のペシミズム。『孤独のスケッチ(LE MAL DE VIVRE)』というタイトルなど正しくその表れだと。バルバラの歌手としてのデビューは決して早くは無い。既に人生の苛酷さ、世界の狂気を体験されていた。なので、自作曲を歌い始めてから最期までご自身の曲たちは私たちに向けての曲でもあり、バルバラご自身のためのシャンソンであり続けたのだとも想うのです。オリジナル・アルバムは全部聴いているけれど、まだまだ聴き続けないと納得がいかない。アルバムを一通り聴いただけで聴いた気にはなれない。とても大好きなアーティストは皆そのように想います。これも愛しきものたちと生きるための修行なのかもしれません。

 ご自身の曲を歌われる以前はジョルジュ・ブラッサンスやジャック・ブレルの曲を歌われていた。私が生まれる以前の作品。その頃からバルバラは「黒」のイメージ。そして真っ赤な薔薇のお花も。そして、「孤高の麗人」であるので誰とも比べることなど出来ない存在として、また決して太ることもなかった。世界にたった一つの至宝のようなあのお声。次第に高音が出なくなってゆく時期のアルバムだって大好き!バルバラはただお上品なシャンソン歌手ではない。その潰れてゆくお声でロックへと向かう。私があるアーティストの生涯の作品を通じて「ロックもシャンソンも好き」で居られるお方はそんなに多くは存在しない。70年代のフランソワ・ヴェルテメールとの作品を知った時、プログレという流れでヴェルテメールのアルバムを聴いていたので、バルバラのアルバムでその名を見つけた時はとても嬉しかったです。その頃は、バルバラの歌に情念のようなものが色濃く刻まれてゆく頃でしょうか。

 「天は二物を与えた麗人」のお一人であるバルバラ。けれど、これ程までにその二物以上の壮絶な哀しみをも背負っておられた麗人を私は知らない。いつも想うまま独り言のように書いている。後から読むといつも訂正したくもなるけれどこれが今の私の心。私如きが語るなかれ、と畏れ多い存在のバルバラなのですが、私の棺には必ずバルバラのレコード・ジャケットを添えて欲しいと想っています。まだまだ生きるけれど☆

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